B:大蛭の帝王 リーチキング
銀泪湖で活動する「聖コイナク財団」の人々に、「リーチキング」という身も蓋もない名前をあたえられた、巨大リーチがいるわ
ふくれ上がった肉塊のような姿は滑稽だけど、意外にも素早く、決して侮れる存在ではないわ。血を吸われて干からびたくなければ、注意することね。
~グランドカンパニーの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
「なるほど!蛭かぁ」
あたしは数日来の疑問が解けてスッキリして言った。
「純粋な害獣退治って久しぶりな気がしない?」
相方がワクワクした顔で言った。
言われてみれば確かにそうかもしれない。毎回何かとモブが逆に人間に振り回された結果のリスキーモブ指定だったり、同情の余地があったり、はたまた利害が絡んでいたりと面倒臭い状況のモブが多かった気がする。まぁ、あたし達の性分がいっそう面倒臭くさせていたという部分は多分にあるのだが。
それを思えば今回は単純明快、害を成す魔物を狩る事で解決するケースで気が楽だ。
数日前、グランドカンパニーを訪れた際のモブハント担当官の話しによれば、今回依頼してきたのは銀泪湖の東海岸にキャンプを置くノア調査団だった。
ノア調査団は聖コイナク財団を母体とするシャーレアンの研究者とガーロンドワークス社が協力した事で発足した団体でクリスタルタワーを研究する事で古代アラグ文明の技術を紐解くために、現地クリスタルタワーの麓に拠点キャンプを張って日夜研究している団体だ。団体の代表のラムブルースは色黒の肌をしたルガディンでどちらかと言えば研究より拳闘のほうが向いていそうだがシャーレアンの賢人でもある。
そのノア調査団のキャンプ近くで研究員の一人が変死したのだという。魔物に襲われた事は間違いないのだが、これといって致命傷となるような外傷は見当たら無かった。
死因は失血死であり、体内の血液は全て綺麗に無くなっていたという。
こう聞いて思い出すのはラノシアのバーバステルという巨大吸血蝙蝠だが、あれは完全な創作だった。怪鳥ならともかく、いくら大きくても骨格も翼も脆弱な蝙蝠が5、60kgの血液を飲んで飛ぶことは出来ない。だが、今回は実際に人的被害がでているという。一体人体の血液を飲み干す化け物とはどんな奴なんだろう?あたしはずっと疑問を抱えたままモードゥナまで来たのだが、ようやくスッキリした。
「蛭が相手なら細かい事ごちゃごちゃ考えずにやれるね」
あたしは笑顔で相方に答えた。するとラムブルースは申し訳無さそうに目を手で隠すような仕草をして眼鏡を押さえながら左手であたし達を制した。
「いや、大変に言いにくいんだが...」
あたし達はあからさまに曇った顔でラムブルースを見た。
「実は我々がリーチキングと呼ぶこの巨大蛭なんだが、クリスタルタワーの遺跡採掘している際に開けた穴から現れたんだ」
ラムブルースが何がいいたいのかうっすら察しは着いたが、あたしは惚けるように言った。
「……つまり?」
「つまりだ。リーチキングはクリスタルタワーという極めて貴重なアラグ文明の遺跡内部に生息していた貴重な学術的資料なんだ」
あたしは続きが聞きたくなくてぶっきらぼうに言った。
「で?」
ラムブルースはでかい胴体を真ん丸にして顔の前で手を合わせて懇願した。
「なんとか生け捕りにして貰えないだろうか?」
「えぇぇぇー……やっぱり」
あたし達はめいいっぱい不満の声をあげた。
「頼む!」
ラムブルースは土下座さながら、地面に額を擦り付けるようにして言った。
忌々しげにラムブルースを見ていた相方がラムブルースにクルッと背中を向けて呟いた。
「これだから研究者ってやつは…」
それ以上は書くのも憚られるような言葉が小声で羅列されていた。どうやらあたしより相方の方が不満が大きいようだ。